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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)8162号 判決

原告 山口智 外三名

被告 国

訴訟代理人 真鍋薫 外二名

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告ら訴訟代理人は

「被告は、原告山口に対し金二二一、八四四円、原告船越に対し金一三九、〇三六円、原告中尾に対し金一三六、七四八円、原告小倉に対し金一三六、八五二円およびこれらに対する昭和三一年一〇月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決と仮執行の宣言を求め、

被告指定代理人は

「主文同旨」

の判決を求めた。

第二原告らの請求原因

一  原告らの雇用と解雇

原告山口は自動車運転手、その余の原告らはウエイトレスとして米空軍第八戦闘爆隊労務連絡士官リンカン・シー・マツケイに雇用され、原告山口は板付空軍基地春日原将校クラブに、原告船越、原告小倉は同基地第六兵員食堂に、原告中尾は同基地春日原下士官食堂に勤務していたところ、昭和三一年一月二〇日附でいずれもリンヨン・シー・マツケイにより保安上の理由によるとして解雇の意思表示を受けた。

二  解雇の無効と仮処分による救済

(一)  解雇の無効

右解雇の意思表示は、原告らの活溌な組合活動を嫌悪し、原告らを差別待遇する意思で行われたものであるから、不当労働行為として無効である。

従つて、原告らとマツケイとの間にはなお雇用関係が存続しているのであるから、同人は原告らの労務の提供を予め故なく拒否していることに帰し、原告らは同人に対し賃金請求権を失わないものである。

原告らの昭和三〇年一〇月一日から同年一二月三一日までに受けた賃金の月の平均額、同賃金から控除さるべき社会保険金、所得税の月額はいずれも別表(一)のとおりである。

従つて、原告らは昭和三一年二月一日以降毎月少くとも別表(一)毎月の手取り月額欄記載の金額の賃金請求権を有している。

(二)  仮処分による救済

原告らは昭和三一年一月三一日マツケイらを被申請人として福岡地方裁判所に解雇の効力を停止する仮処分命令を申請し、同庁同年(ヨ)第二六号事件として係属したところ、同裁判所は同年三月二三日マツケイに対し同人が「昭和三一年一月二〇日附で原告らに対してなした解雇の意思表示の効力はいずれもこれを停止する。」との仮処分判決(以下、第一仮処分という。)をした。

次いで原告らはマツケイを被申請人として同年四月一二日同裁判所に賃金支払の仮処分命令を申請し、同庁同年(ヨ)第一四五号事件として係属したところ、同裁判所は同年五月一〇日別紙(二)の仮処分決定(以下、第二仮処分という。)をした。

三  第八戦闘爆撃隊司令官の違法な職務執行による仮処分の執行不能

(一)  裁判所によるマツケイの財産の引渡請求

第二仮処分の債務者であるマツケイは米国軍隊の使用する施設又は区域内である板付空軍基地春日原米軍人宿舎内に一九五三年型シボレー(車台番号C―五三―九四六六三号、価格二〇〇万円以上)その他の財産を所有し、基地外には財産を所有していないので、原告らは福岡地方裁判所に対し日本国とアメリカ合衆国との安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う民事特別法第五条に基き米空軍第八戦闘爆撃隊司令官オー・エイチ・レーマン大佐に合衆国軍隊が使用する施設内にあるマツケイ所有の動産の引渡を求める命令を申請し、同裁判所は昭和三一年七月一〇日同司令官に対し同月一八日午前一〇時マツケイ所有の動産の引渡を求める書面を発し、同書面は同時刻以前に同司令官に送達された。

(二)  同司令官の財産引渡請求の拒否による第二仮処分の執行不能

第八戦闘爆撃隊司令官は前記行政協定第一八条第六項(b)により福岡地方裁判所の前記財産引渡請求に応じ、合衆国軍隊の施設内にあるマツケイの私有財産を差押えてこれを原告の委任した福岡地方裁判所執行吏に引渡すべき義務があるのにかかわらず、右引渡請求を拒否し、なお、将来も第二仮処分命令に基く裁判所の財産引渡請求に応じない意思を明らかにした。

従つて、右司令官の違法な職務の執行により第二仮処分に基くマツケイ所有の財産に対する執行は不能となり、結局右仮処分は実効をおさめ得ないこととなつた。

四  原告らの権利ないし法律上の地位に対する侵害

(一)  原告らの賃金債権に対する侵害

原告らは前述のとおり、マツケイに対し昭和三一年二月一日以降別表(一)毎月の手取り月額欄記載の金額の賃金債権を有しているが、前記司令官の違法な職務執行により右債権の満足を得ることが不可能となり、結局原告らの賃金債権が侵害されたものである。

(二)  仮処分によつて形成された原告らの法律上の地位に対する侵害

原告らは第一仮処分によりマツケイとの雇用関係を形成され、また第二仮処分によりマツケイに対する賃金債権につき直ちに強制執行をして原告らの賃金債権の仮の満足を得ることができる法律上の地位を形成されている。

しかるに前記司令官の違法な職務執行により第二仮処分の執行は不能となつた。

従つて第二仮処分が原告らのために形成したマツケイに対する賃金債権の仮の満足を得べき法律上の地位は右司令官の違法な職務執行のため侵害されたものである。

五  損害の発生と被告のこれに対する賠償責任

(一)  損害の発生

(1) 給料相当額の損害

原告らはマツケイより支払を受くる賃金を唯一の生活の糧としているのであるから、賃金の支払を受け得ないことは原告らの生活の根本的な破壊を意味する。

その上マツケイは米国軍人で何時本国へ帰還するかわからないのであるから、賃金の支払の遅延は権利の実行が不能となる虞があることを意味する。

よつて、原告らは前記司令官の違法な職務執行によつて昭和三一年二月一日以降毎月別表(一)毎月の手取り月額欄記載の額の給料相当額の損害を受けるわけである。

なお、原告らは本訴において各自昭和三一年二月一日から同年九月末日までの八ケ月分の合計額を請求する。

その額は各原告につき別表(一)最下欄記載のとおりである。

(2) 第一、第二仮処分の申請等に要した費用の損害

原告らは前記司令官の違法な職務執行によつて、第一、第二仮処分申請費用および第二仮処分の執行費用相当額の損害を受けた。

その明細は次のとおりである。

(a) 金五万円

第一、第二仮処分申請費用および報酬として原告らが弁護士諫山博、同田中実に支払つたもの

(b) 訴訟関係書類印刷のため福岡市清水西町一番地所在栄光プリント有限会社に支払つた費用

(イ)  申請書印刷費用

金七五〇円 仮処分申請書五〇通

(ロ)  疎明書類印刷費用

金一、二五〇円 保安協定写 五〇通

金一、五〇〇円 将校クラブ就業規則写 五〇通

金一、五〇〇円 兵員食堂就業規則写 五〇通

金一〇〇円 解雇通知書写(邦文) 五〇通

金五〇〇円 解雇通知書写(英文) 五〇通

(ハ)  第一仮処分判決写印刷費用

金二、四〇〇円 右判決写 八〇通

(ニ)  県会請願書印刷費

金四、三〇〇円 右請願書 一〇〇通

なお、写を多数印刷したのは裁判所の報告用、審理に関係ある労働組合関係者、学識経験者に対する配布用等にあてたもので、これらの配布は第一、第二仮処分の審理にとつて不可欠のものであつた。

また県会請願書は右仮処分の執行等に対する不法な妨害を予防するための必要な措置であつた。

(ホ)  第二仮処分の執行費用

金五六〇円 第二仮処分の執行費用として福岡地方裁判所執行吏に金二八〇円あて二回に支払つた費用の合計額

以上(a)および(b)の(イ)ないし(ホ)の総計は金六六、三二〇円(注、この主張金額は誤算であつて、真実の総計は金六二、八六〇円)となり、右金員を原告ら四名が平等に分担したので、一人当りの負担は金一六、五八〇円(注、前注の真実の総計による一人当り負担金一五、七一五円)である。

(3) 精神的苦痛による損害

原告らは前記司令官の違法な職務執行により、その賃金債権を侵害され、あまつさえ裁判所による救済をも無視され、精神上の苦痛を受けた。

よつて、金五〇万円の支払をもつて原告らの精神上の苦痛を慰藉されるべきものである。

原告らは各自その内金五万円を請求する。

(二) 被告の賠償責任

以上の原告らの受けた損害は、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行協定に伴う民事特別法第一条により被告がその賠償の責に任ずべきもである。

(三) よつて被告に対し、原告山口は右(一)の(1)、(2)、(3)の合計額金二二一、八四四円、原告船越は同上合計額金一三九、〇三六円、原告中尾は同上合計額金一三六、七四八円、原告小倉は金一三六、八五二円およびこれらに対する本件訴状送達の翌日である昭和三一年一〇月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

一  原告らの雇用について

原告らがその主張の将校クラブ、兵員食堂または下士官食堂においてその主張の職種の従業員として勤務していたことは認めるが、原告らの雇用主はマツケイではない。

これらの将校クラブ等の施設は一九五三年(昭和二八年)一一月四日米合衆国空軍省および陸軍省によつて制定された空軍規則第一七六―一陸軍規則第二一〇―五〇の歳出外資金規則によつて設立された合衆政府の補助機関である歳出外資金機関として運営されているものであつて、労務者の雇用も歳出外資金機関である右施設そのものが主体となつて行われるものである。

マツケイは右各施設の人事管理業務の担当者であつて、原告らの雇用主ではない。

二  原告らの解雇について

原告らがその主張の日マツケイの名義により解雇の意思表示を受けたことは認める。

これは原告らの雇用主である右各施設を管理運営する上級司令官が原告らの雇用を継続することは合衆国の利益に反するとの保安上の理由により原告らの解雇を決定したので、マツケイが右各施設の人事業務担当者としてその手続をとつたものに過ぎない。

原告らの解雇が不当労働行為であるとの主張事実は否認する。

三  仮処分とこれに基く財産引渡請求等について

原告らの請求原因二の(二)の事実、同三の(一)の事実中マツケイの財産所有関係を除くその余の事実、同三の(二)の事実中第八戦闘爆撃隊司令官が財産引渡の請求を拒んだことは認める。その余の同三の(一)、(二)の事実は争う。

四  損害発生に関する原告らの主張について

(一)  本案請求権の不存在

原告らの雇用主ではなく、従つてまた原告らに対し賃金を支払うべき義務を負担していないマツケイを被申請人とする第一、第二仮処分があり、第二仮処分による執行によつて、原告らが金員の支払を受けることができたとしても、原告らは将来本案判決によつて敗訴せざるを得ない結果となるのであるから、第二仮処分によつて給付を受けた金員も返還しなければならないことになるのである。

従つて、第二仮処分が原告らのために形成した請求権は本来本案判決によつて実現し得ないものであるから、第二仮処分が執行不能となつたとしても、仮処分決定によつて認められた請求金額と同額の損害が発生する余地はない。

(二)  第二仮処分による救済の存続とその執行不能による損害の程度

第二仮処分に表示された給付請求権はその執行が一時的に執行不能となつたとしても、右給付請求権そのものが消滅する筋合ではない。第二仮処分による救済すなわち第二仮処分による執行の可能な状態は今日でも続いている。

しかも原告らが第二仮処分によつて与えられた法律上の利益は、本案の請求権の存否が確定されるまでの間の仮定的履行状態の実現利益に過ぎない。

従つて、その利益はいわば本案判決確定に至る間に原告らが他から借入等の手段によつて賄わるべき金員と同視し得る性質のものであるから、第二仮処分の執行不能によつて、かかる仮定的履行状態の実現が得られなかつたとしても、これによつて生ずる損害は、その実現し得べかりし金額の全額ではなく、他より代替的に入手さるべき金員の利息相当額に過ぎない。

(三)  原告ら主張のその他の損害について

原告ら主張の弁護士の費用ないし報酬、訴訟関係書類印刷費用等の損害は原告ら主張の不法行為とは相当因果関係にあるものではない。

その余の原告ら主張の損害の発生は否認する。

第四立証〈省略〉

理由

第一原告らの勤務と解雇

原告山口は板付空軍基地春日原将校クラブに自動車運転手として、原告船越、原告小倉は同基地第六兵員食堂に、原告中尾は同基地春日原下士官食堂にいずれもウエイトレスとして勤務していたところ、米空軍第八戦闘爆撃隊労務連絡士官リンカン・シー・マツケイ名義の昭和三一年一月二〇日附解雇の通告を受けたことは当事者間に争がない。

第二原告らの雇用主

原告らは、原告らの雇用主はリンカン・シー・マツケイであると主張し、証人吉田貞郁の証言中には原告らの右主張に添うような部分もあるが採用しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

また原告らの援用する第一、第二仮処分(原本の存在とその成立に争ない甲第一、二号証)も、後記のとおりマツケイが同人の私有財産をもつて原告らの賃金債権の支払の責に任ずべき地位にある雇用主と認めたものではないと解される。

従つて原告らがマツケイに対し実体上賃金債権を有するとの原告らの主張事実については立証がないから、右賃金債権に対する侵害を前提とする原告らの不法行為の主張は採用できない。

第三第一、第二仮処分によつて形成された原告らの法律上の地位

福岡地方裁判所が原告ら主張の各日時マツケイを被申請人として原告ら主張の第一仮処分(判決)と別紙(二)の第二仮処分(決定)をしたことは当事者間に争がない。

右事実によれば、福岡地方裁判所は原告らの雇用主をマツケイとして、まずいわゆる解雇の効力停止の仮処分をし、同人が右仮処分に添う措置をとらないため原告らが生活に困窮するものと認めて賃金支払の仮処分をしたものと認められるから、同裁判所が原告らとの雇用関係においてマツケイにどのような意味において雇用主としての責任を認めたかは第一、第二各仮処分を通じて判断されるべきものである。

原本の存在とその成立に争ない甲第一号証(第一仮処分判決)によれば、原告らのような「直傭日本人労務者は……将校クラブ、或は駐留軍の構成員である下士官、兵に実質上雇傭されているのである。しかし将校クラブはそれ自体独立して直接日本人労務者を雇傭し得るだけの機構を有しているものとは………認められず、また下士官、兵員各食堂の利用者である個々の下士官、兵が直接日本人労務者を雇傭することも実際上できないので、右将校クラブや下士官、兵らはたまたま労務連絡士官たる被申請人リンカン・シー・マツケイに日本人労務者の雇入、解雇に関する事務を委任しているものと認めるのが相当である。」としている。

従つて第一仮処分は、原告らの実質上の雇用主は、「米国の歳出外資金による機関である将校クラブ」又は「駐留軍の保持する機関の一つである下士官、兵員各食堂の利用者である下士官、兵個々人」であるとしているとしているのである。

ところで、第一仮処分は交替、移動などにより常に流動する前記各食堂の利用者である下士官、兵がそれぞれ直接労務者を雇用することは実際上できないことを承認してなおこれらの下士官、兵を原告らの実質上の雇用主と認定しているのは、結局同仮処分はこれらの下士官、兵の醵金が食堂従業員の雇用という目的のために組織、運営されていることを前提とするものであると考えられる。

そして第一仮処分にいうマツケイが労務者の雇入、解雇に関する事務を委任されているというのは、マツケイが労務連絡士官として将校クラブないし前記の下士官、兵の醵金の運営のための組織上労務者の雇入、解雇に関する事務をとる地位について、その事務を処理する関係を指称するものと解せられる。

以上によれば、マツケイは労務連絡士官の地位にあるため、将校クラブないし下士官、兵の醵金を運営するための組織(以下将校クラブを含め、資金団体という。)のために自己の名において原告らとの雇用関係を締結しているものであつて、仮に同人がその地位を去れば、当然右雇用関係から脱退し、後任の労務連絡士官が原告らとの雇用関係の主体としての地位に就くものと考えられる。

このことは第一仮処分判決中に「軍直傭労務者の雇傭者は結局右職責(註、労務連絡士官たる。)にある被申請人リンカン・シー・マツケイであると考えられる。」との文章があり、また「右将校クラブや下士官、兵等はたまたま労務連絡士官たる職務にある被申請人リンカン・シー・マツケイに日本人労務者の雇入、解雇に関する事務を委任しているものと認めるのが、相当である。との文章が存することからも窺われるところである。

従つて第一仮処分は前記の資金団体は人格がないため、マツケイが原告らとの雇用関係の形式上の主体として現われている点をとらえ、これに対して仮処分をしたものというべきである。

かかる意味において雇用主であるマツケイを被申請人としてなされた賃金支払の第二仮処分は、マツケイの個人財産が原告らの賃金債権の実現のための責任財産になるものとして発せられたものではないと認めるのが相当である。

従つて第二仮処分は、その債務者であるマツケイにおいて前記資金団体のために所持し管理している財産が存すれば、これに対する執行がなされることを前提として発せられたものと解される。

第四マツケイと資金団体の財産

そこで、マツケイが前記資金団体の財産の管理人ないし所持人としての地位を有していたかどうかを検討すべきこととなる。

原本の存在とその成立に争ない乙第一、二号証によれば、歳出外資金機関は軍司令官の直接の管理および監督の下に置かれるが、通常軍司令官はこの管理権をその目的のために特に任命し、指定する士官を通じて行使するようであつて、本件に現われた全証拠によつても、マツケイが第二仮処分当時板付空軍基地内における歳出外資金機関の財産の管理人ないし所持人としての地位にあつたことを肯認することができない。

なお、第一仮処分は下士官、兵員各食堂が歳出外資金機関であるとは認定せず、原告らの実質上の雇用主は同食堂の利用者である下士官、兵であるとしているが、前説明のとおり同下官、兵の醵金を運営する組織に管理される財産が前記各食堂の従業員の賃金債権の責任財産となるものと解される。しかし本件に現われた全証拠によつても、マツケイがかかる組織の管理する財産の管理人ないし所持人の地位にあつたものと認めることができない。

仮にマツケイが第二仮処分当時資金団体のために所持し管理していた財産があつたとすれば、第二仮処分による執行は可能であつたと思われるが、原告らはマツケイの個人財産に対して執行しようとしたことだけしか主張していないのである。

第五結論

以上のようにマツケイが歳出外資金機関である板付空軍基地春日原将校クラブ又は同基地下士官食堂、兵員食堂の利用者の醵金を運営する組織に属する財産を所持し管理していた証拠がなく、更に原告らがこれらの財産に対して第二仮処分の執行をしようとしたとの主張もないから、原告ら主張の第二仮処分の執行に障害があつたとしても、その執行障害により原告ら主張の損害を生じたであろうとは認められないところである。

よつて原告らのその余の主張に対して判断するまでもなく原告らの本訴請求の失当であることは明白であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 石田穰一)

別表(一)

原告

賃金月額

社会保険金

所得税

賃金手取り月額

同上八ヶ月分

山口智

二〇、六三六円

一、一〇二三円

二〇五円

一九、四〇八円

一五五、二六四円

船越久子

九、七四六円

五〇四円

一八五円

九、〇五七円

七二、四五六円

中尾衣子

九、四〇九円

五〇四円

一三四円

八、七七一円

七〇、一六八円

小倉幸子

九、二八八円

五〇四円

八、七八四円

七〇、二七二円

別紙(二)

仮処分決定

福岡県筑紫郡大野町県営住宅四五号富田守方 申請人 山口智

福岡市北浜町四丁目六番地 同船越久子

同市井相田新和町朝汐 同 中尾衣子

同市北浜町四丁目六番地船越久子方 同 小倉幸子

右代理人弁護士 田中実

諌山博

福岡県筑紫郡春日町板付空軍基地内 被申請人 リンカン・シー・マツケイ

右当事者間の昭和三一年(ヨ)第一四五号賃金支払請求仮処分命令申請事件につき当裁判所は右申請を相当と認め次のとおり決定する。

主文

被申請人は申請人山口智に対して五万八千二百二十四円、同船越久子に対して二万七千百七十一円、同中尾衣子に対して二万六千三百十三円、同小倉幸子に対して二万六千三百五十二円及び昭和三十一年五月以降本案判決確定に至るまで毎月末日迄に申請人山口智に対して月額一万九千四百八円、同船越久子に対して九千五十七円、同中尾衣子に対して八千七百七十一円、同小倉幸子に対して八千七百八十四円をそれぞれ支払わなければならない。

申請費用は被申請人の負担とする。

昭和三十一年五月十日

福岡地方裁判所

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